「自衛隊員がイラクで100人死ぬ。本当にこれでいいのか」

「自衛隊員がイラクで100人死ぬ。本当にこれでいいのか」
―― 9条改造反対の世論を大きく高めるために今必要なもの ――
2005.5.29     弁護士 毛 利 正 道
9条改造反対の声が減っている(?)
 昨年6月の「9条の会」発足以来、そのアピールに賛同する全国各地域・各分野1900を超える「9条の会」が生まれています。長野県でも今も毎週のように増え続け、150を超えています。ほとんどのところで、地域の著名人・有力者・無党派と従来からの護憲勢力との幅広い共同ができ、いわば、燎原の炎のように広がっています。そのなかで、しかし、今年5月3日の朝日新聞の世論調査では、9条改正反対の声が74%(01年)→60%(04年)→51%(05年)と年を追って大きく下がり続けている結果がでました。いまだ過半数を保っていること、自衛隊に海外での武力行使まで認めるとする者はわずか15%であること、20才代では9条改正反対が57%と各年代で最も高くなっているということ、という希望を感ずる結果も同時に出てはいますが、世論調査とはいえ、4年間で23%、ほぼ4人に1人、9条改正反対の声が減っているという結果は軽視できません。
 これはなぜでしょうか。一つは、9条の会がこれまで1900生まれたとはいうものの、大局的には、従来護憲の心は持っていたが、表に出にくかった人々が表に立てたという段階にあり、中央「9条の会」事務局の小森陽一さんが再三言われているように、改憲論を支持している人々を変える斗いはこれから始まるという段階にあるためでしょう。
ますます好戦的なマスメディア
 もう一つの要因は、好戦的なマスメディアの状況にあると思います。ファルージャ・カイムでの虐殺などイラク戦争の実態を報道しない、9条の会の動きをほとんど無視する(特に全国系テレビ)、中国の「反日デモ」についても、ほとんどが多くの市民が参加して整然となされており、ある地方都市では、片側2車線の広い直線道路の、半分を埋める人の波が見渡す限り遠くまで整然と続いている写真があります。これと、石を投げる場面とでは、日本人の受け取り方は大きく異なります。北朝鮮についても、金日正政権の核兵器瀬戸際政策はとても認めることできるものではありませんが、例えば、核実験するのか否かについて、アメリカでも見方が分かれている時に、日本では見出しで大きく「北朝鮮、核実験か」と打ち出しています。私は、昨年11月以来、沖縄タイムスを郵送で購読していますが、基地・平和・憲法問題についての扱いは、本土と比べ、ケタ違いに豊富です。同じ商業新聞である沖縄のこのマスコミの姿を鏡とするとき、日本のマスメディアが全体として好戦的な方向に事実を歪めて報道していること極めて明白です。
自衛隊がイラクで百人死ぬ
 このように、9条改正反対の声がかなりの角度で減少している可能性がある現在、日本と世界の宝、9条を柱とする日本国憲法を守りきるために、今、何がとりわけ必要なのでしょうか。この点に関し、最近、私は次の二つの体験をしました。
 ひとつは、長野県の南、飯田市のある区長さんの話を聞きました。この人は、地元の自民党代議士の後援会幹部ですが、他の有力者と同じく、地域の9条の会に賛同してくれてはいました。でも、息子さんが自衛隊員になってもいる家なので、地域の方が、県内で取り組んでいる9条を守り生かす署名用紙を「この家は無理かな」と思いつつ、それでも、とその家に届けておいた。そしたら、その日のうちにその区長さんが家族全員の署名をして持ってきて、「俺は、海外で戦争させるために息子を自衛隊に出したんじゃない」と言ったそうです。そうです。現在の憲法改正は、日本の国を守るためではなく、海外でのアメリカの違法無法な戦争で自衛隊にドンパチ戦斗させるためになされようとしているのであり、その点では、自民党を強く支持している人も、自衛隊員の家族からも、すなわち、圧倒的多数の国民が反対する客観的可能性を持っている課題なのです(この点については、拙稿「九条改正反対―ひかりはどこにあるのか」http://www1.ocn.ne.jp/~mourima/05.4hikariha.html
を参照下さい)。
 先ほどの世論調査にみられるように、自衛隊の海外での武力行使まで認める人は15%しかいないのであり、残りの85%の国民に、改憲のこの真の狙いを理解してもらえれば、改憲策動を打ち砕くことは十分可能です。
 二つ目の体験は、5月3日の憲法記念日集会に、イラク人質事件から立ち直り、イラク支援プロジェクトとイラクの実情を伝える講演活動を続けている高遠菜穂子さんをお呼びし、主催者の予想を大きく上回る、ほぼ会場いっぱいの850名が参加し、内容的にも参加者の認識を大きく深めるものになったことです。高遠さんは、イラクの再建のために学校・病院やストリートチルドレンの居場所づくりをイラク人と共にすすめていますが、この間、協力者が何人も殺されていて、彼女は本当にこの再建のための斗いに命を賭けているのです。その彼女が、映像をふんだんにつかって語るファルージャでの住民虐殺の数々には息が止まります。映像と音だけでなく、腐敗した死体から死臭が伝わってきます。命を賭けた講演でしか伝わらないものです。
 むろん、彼女は9条改正反対とは言いません。そこを、私が実質20分のレクチャーで補いました。
 曰く―― アメリカは、日米同盟を英米同盟のように変えると言っている。今、イギリスはイラクに9000人派兵して87名が死亡している。ほぼ100人に1人。米軍も100人に1人死に、10人で少なくともイラク人1人を殺している。ということは9条を変えると、自衛隊がイラクでイギリス軍と同様実戦に参加して、1万人派兵されて1000人のイラク人を殺し、100人の自衛隊員が死ぬということなのです。この100人が死ぬということがどんなことなのか、JR福知山線脱線転覆事故で107人死亡したことからよくわかります。今日は、憲法を変えたら自衛隊がどのように人を殺し、殺される事態になるのか、本当にそれでよいのか、皆さんと共に考えるために高遠さんをお呼びしました。―― 
(自分で言うのも何ですが、私のこの話によって、高遠さんの話が何倍にも生きたと思っています。めったに誉めない私の妻が「朝リハーサルをして臨んだ夫の話もよかった」とホームページに書いただけでなく、何人もから「お褒めの言葉」をいただきました。)
改憲の狙いが目に見えるように
 私は、この二つの体験をするなかで、アメリカの絶え間ない戦争のなかでも、とりわけ、違法無法ぶりが明らかなイラク戦争の実態、どんなに殺し殺されることがひどいことなのかを、もっともっと日本の国民に伝えるべきだと強く思いました。改憲の狙いがよく見えるように国民に示す必要があるのです。しかもこれは、イラク戦争の実態を伝えない、好戦的なマスメディア状況に対する斗いでもあり、これとの斗いを抜きにして、9条改正反対の世論を高めることはできないという点も重要です。
 それでは具体的にどうしたらよいでしょうか。臭いまで伝わる高遠さんの講演にレクチャーを付ける、これが最高でしょう。今ロードショー公開中の綿井健陽さんのドキュメンタリー映画「リトルバード」も見ましたが、この映画の上映会はお勧めです。
 更に、つい一週間ほど前に土井敏邦さんのドキュメンタリー「ファルージャ2004年4月」のビデオ・DVDが発売になりました。価格が安く、手軽に上映会を行うことができます。他にもジャーナリスト・ボランティア・イラク人など、とりわけ、イラク派兵訴訟でつながった少なくない講演者がいます。
全国の「9条の会」でイラクに迫ろう
 私がとりわけ重視したいのは、現在までに1900を超え、日々増え続けている全国の「9条の会」いたるところで、このイラク戦争の実態を知る企画をとりあげていただきたいということです。各々の会員はもちろん、広く市民に呼びかけて大いに9条改正の狙いを実感を伴ったものとして広めていただけないものでしょうか。そうしてこそ、世論を改憲を阻む方向に大きく盛り上げていくことができると思います。
     

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